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スタジアムを熱く、楽しくする横浜F・マリノスサポーターのためのウェブマガジン「Web Magazine hamatra」(ウェブマガジン ハマトラ)  Presented by NPO法人ハマトラ・横浜フットボールネットワーク

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hamatra NFM extra:僕たちが松本翔と過ごした春夏秋冬

先日、北信越リーグの「サウルコス福井(2020年4月19日加筆:現在は福井ユナイテッドFCへ承継)」への移籍加入が発表された、元横浜F・マリノスMF、松本翔選手。


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松本選手が、横浜F・マリノスからの契約満了と、当時の期限付き移籍先であったレノファ山口FCからの退団が発表されたのは、2015年12月のことでした。

あれから1年間の時を経て、福井への移籍加入が発表。

この1年間の間、彼はどう過ごしていたのでしょうか。

どのようにサッカーと向き合い、取り組んできたのでしょうか。

そこにはある一つのチームの存在が、深く関わってきます。

そのチームとは…そう、「日本工学院F・マリノス」です。

今回は特別編として、松本翔選手と日本工学院F・マリノスが共に過ごした1年間について、見守ってきた一ファンからの目線で、語らせていただきたいと思います。




松本翔が日本工学院グラウンドに現れた、ある春先の日

その日は突然、訪れました。

2016年4月30日(土) 関東サッカーリーグ2部 前期第5節 LB-BRB TOKYO戦。

いつも通り工学院の公式戦に向かう私は、前日に某所で聞いた情報を頭の片隅に持ちながら、普段通りに日本工学院グラウンドへと向かいました。

その情報とは、「松本翔が日本工学院F・マリノスの練習に参加しているらしい」というものでした。

本当かな?と、確信を持てないままグラウンドに向かい、試合に向けた準備を開始しました。

しばらくすると、見慣れたグラウンドに、ここでは見慣れない、でもとてもよく知っている姿が…。

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松本翔選手、本人そのものでした。


後日聞いた話によれば、マリノスとレノファを退団した後、移籍先が決まらなかった中で、練習参加する場所を求めていた松本翔選手が、横浜F・マリノスプライマリー時代の恩師である川合学監督に相談したところ、工学院への練習参加が決まった、とのことでした。

この日のリーグ戦の対戦相手、LB-BRB TOKYO(現:東京ユナイテッドFC)には、マリノスユース出身で、慶應義塾大学ソッカー部でキャプテンを務めた、山田融(やまだとおる)選手が所属していました。

(※注:当時。現在は退団されたとのことです。)

山田選手は松本選手の1年後輩に当たります。グラウンドで再会し、談笑する姿が見られました。

その時の写真がこちらになります。

(こちらは、まだ松本翔選手が工学院にいることをあまり公にしていなかった時の写真のため、本邦初公開となります。)

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そして、この写真を撮った後に私と松本翔選手が交わした会話は、

(私)「翔君!工学院の練習に参加してるんだって?!」

(翔)「そうです~。」

(私)「がんばってね!」

(翔)(軽く会釈)

これだけでした(笑)


ちなみにこの日の試合は2-3でLB-BRB TOKYOが勝利

山田融選手がボランチとして君臨する中盤を攻略できず、残念ながら工学院の敗戦となりました。


史上初の松本家ダービー!夏の練習試合「日本工学院F・マリノス vs かながわクラブ」

その後も、松本翔選手は日本工学院F・マリノスの試合に現れ続けます。

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工学院の選手たちに話を聞くと、「平日は僕らの練習に参加してますよ~。間近で翔さんのプレーを見ることができて、すごく勉強になってます。」という声もありました。

段々とチームに馴染んできているようで、いい兄貴分となってきているようです。

一方で、あくまで練習参加であり、工学院に選手登録はしていませんでした。そのため、工学院の公式戦に出場することはできません。

ここは、様々な意図があったのでしょうが、松本翔選手本人の意思で、工学院での選手登録はしなかった、とのことです。


しかし、工学院は大抵、公式戦の翌日に控えの選手たちで練習試合を行っています。

そこでは、松本選手は日本工学院F・マリノスの一員として、トリコロールのユニフォームを身にまとって、試合に出場していました。

そんなある日、工学院の掲示板に掲出されているスケジュール表を見ていると、「7月10日(日) 練習試合 vsかながわクラブ」の文字が。

この「かながわクラブ」というチームは、神奈川県社会人リーグに参戦しているクラブで、昨年は神奈川県1部でしたが、今シーズンより神奈川県2部で闘うことになったチームです。

歴史のあるチームで、神奈川県内では名のある強豪チームの一つであります。

実はそのかながわクラブには、松本翔選手のお兄さん・松本祐樹選手と、弟さん・松本健斗選手が所属しているのです。

(注:当時。現在は松本健斗選手は退団されたとのことです。)

「これはひょっとして、史上初の松本家ダービーの開催…?」そう思いながら日本工学院グラウンドに行くと…

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本当に開催されていました、松本家ダービー!

白の10番がお兄さんの松本祐樹選手、白の18番が弟さんの松本健斗選手、トリコロールの44番が松本翔選手です。

この試合の松本翔選手は、心なしかそれまでの練習試合より気合が入っているように見えました。

また、松本祐樹選手も持ち味であるパワフルなプレーを見せ、松本健斗選手も的確な状況判断でのプレーが光っていました。

この試合、かながわクラブの2点目は松本健斗選手のゴール。

そして、工学院の松本翔選手は2得点。特に2点目は、伝家の宝刀・右足フリーキック一閃でした!

その時の動画がこちらです。

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そして試合後の三兄弟の写真がこちらです。

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(左)弟:松本健斗選手 (中)松本翔選手 (右)兄:松本祐樹選手


3人とも小さいころから長くサッカーをやってきていますが、3人同時に同じピッチ上に立ったのは本当に初めてのことだったそうです。

松本翔選手が工学院に練習参加していたからこそ実現した、夏の松本家ダービーでした。


秋、関東サッカーリーグ最終節、その前夜

その後、松本翔選手は夏の移籍市場での移籍を狙い、国内外のクラブに対して加入できないか模索していきます。

練習参加したり、練習試合に出場させてもらったクラブもあったようですが、契約には至らず。チームが決まらない日々が続きます。

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そんな中、工学院の練習には相変わらず参加。

もうすっかり馴染んでおり、学生たちに交じってボールを蹴り、時にいじられる姿も見られるようになりました(笑)

なお、工学院への選手登録はせず、公式戦に出場できない状況は相変わらずです。

そして時は進み、秋。工学院の関東リーグも終盤戦に差し掛かってきます。

前期の終盤から後期の序盤にかけて調子が上がり、一時上位に食い込めそうだったものの、中盤で引き分けと負けが込み、残り3節で残留が決まっていない状況だった2016シーズンの日本工学院F・マリノス。

しかし、その残り3節の初戦と2戦目で見事に勝利し、最終節を残して関東2部残留をほぼ確定しました。

そんな状況で迎える、9月25日(日) 2016関東2部 最終節 神奈川県教員SC戦。

その前夜、松本翔選手のTwitterに、久々となる投稿がされました。

(以下、一部抜粋)

こんばんは。

 今、練習参加している日本工学院F・マリノスの関東社会人2部リーグの最終節が、明日25日、11時キックオフで行われます。

(中略)

 ここに来る選手は、どちらかと言えば、インターハイや選手権で脚光を浴びず、県や都予選で、強豪校相手にジャイアントキリングを狙ってる選手たちのため、毎日純粋に「上手くなりたい」「上を目指したい」と思って練習しているため、いい意味でも悪い意味でも吸収していきます。

(中略)

サポーターの方にチャントを作ってもらえたら喜び、SNSで試合の写真が出たら保存し、分かりやすく、学生らしさもしっかり兼ね備えています。
今まで光が当たってこなかった選手も、上を目指して戦ってるチームがマリノスにはあるんだなと改めて知ってもらえたらと思います。

 明日、1部昇格がかかってるわけでもなく、降格争いでもありませんが、僕自身、関わらせてもらっているチームなので、知っていただけたら嬉しいです。
マリノスという名をつけ、マリノスに似たようなエンブレムを付け、マリノスに似たようなトリコロールを纏い、戦ってます。
ナイターのフロンターレ戦まで予定が無い方は、気軽に観に来てもらえたら、分かりやすく彼らは頑張れます。思いっ切り、緊張もすると思いますが。

(後略)



私はこの投稿を見て、涙が止まりませんでした。

あの松本翔が、
天才小学生と呼ばれた松本翔が、
マリノスユースを2010年のJユースカップ優勝に導いた松本翔が、
在籍したのべ3年間でたくさんのマリノスサポーターから愛された松本翔が、
工学院を、工学院の選手たちのことを、こんなにも理解してくれている。愛してくれている。共に闘ってくれている。

自分自身の移籍先が決まらず、色々と思うところもある中で、日本工学院F・マリノスのことを思い、発信し、みんなに知ってもらおうと行動してくれている。

その事実だけで、ただただ嬉しかったです。


翌日、神奈川県教員SC戦。

この試合は2-1で日本工学院F・マリノスが勝利!終盤の3戦を3連勝で終え、順位も4位と、過去最高の順位でリーグ戦を終えました。

この試合の後、選手としてではなかったけど、共にシーズンを闘ってきた仲間として、感謝の気持ちを込めて、マリノスユース時代の松本翔選手のチャントを歌いました。

最初は照れて「いいよいいよ」という仕草を見せていた松本選手でしたが、歌い終わり、コールをし終わったときには、我々の方に向けて手を挙げて応えてくれました。

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また、この試合には松本翔選手のTwitterの投稿を見た何人かのマリノスサポーターの方が、日本工学院グラウンドまで足を運んでくださり、工学院の試合を観戦してくれました。

その中の一人の方が、この試合の動画を撮影してくださり、Youtubeにアップしてくださっていました!

こちらです。最後の方に松本翔選手のチャントも入っていますので、ぜひご覧ください。

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松本翔選手の発信により、日本工学院F・マリノスの存在が広まった、そんな秋の関東リーグ最終節の出来事でした。


冬の天皇杯予選、最後の松本翔チャント

リーグ戦が終了した日本工学院F・マリノスは、毎年恒例の「KSL市原カップ」というカップ戦に参戦。

この大会期間中も、松本翔選手の姿は変わらずありました。

12月4日(日)、市原カップの準決勝で関東1部のVONDS市原FCに敗れ、ベスト4で大会を終えた日本工学院F・マリノス。

するとその数日後、12月9日(金)、「Jリーグ合同トライアウト2016」の第2回目が開催され、その午前の部の参加者の一覧に「松本翔」の名前がありました。

1年間所属チームがなかったという扱いになる松本選手は、前所属がJクラブ(横浜F・マリノス)となるため、本年度のトライアウトの参加権を持っていたのです。

そして、トライアウト後は再び工学院で練習。

時折他チームの練習や練習試合に参加しながら、松本選手の所属チーム探しは年を明けて2017年になっても続いていきました。


一時怪我をしてしまい、リハビリしている姿も見られましたが、2月にもなると再び練習試合に出場する姿がありました。

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そして2017年3月12日(日)。

この日は日本工学院F・マリノスの、第97回天皇杯出場への道、「2017年度 第22回 神奈川県サッカー選手権大会 天皇杯・神奈川県代表決定戦」の初戦・vs桐蔭横浜大学の日。

この日もいつも通り、ピッチ上でアップする選手たちと共に、松本翔選手の姿が。

しかしいつもと違ったのは、試合前。工学院の川合監督が私たちに伝えてくださいました。

「翔は今日で最後ですよ。チームが決まりました。」と。

トライアウトを通じてなのか、それとも練習参加が実ったのか、実際のところはわかりません。

しかし、ともかくチームが決まったということは、非常に喜ばしいことであります。

この試合は残念ながら1-4で敗戦

そして試合後に、再びの、そして最後の、松本翔チャント。

最初に「いいよいいよ」とする姿は、9月と全く変わっていませんでした(笑)

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その後、松本翔選手と少しお話する時間がありました。

彼は真っ先に「応援ありがとうございました。」と言ってくれました。

その後、以下のように話してくれました。

「ここに来て、最初は色々教えられたらと思っていた。
でも、彼らと一緒に練習しながら、彼らがチームとして公式戦に臨んでいく姿を見ていて、やっぱりこうやってチームという形で、仲間がいて、公式戦があって、みんなで闘って、そういうのっていいなって、あらためて気づかされました。
それに気づけたことがよかった。教えるつもりだったけど、僕のほうが教わってました。」


1年間、公式戦に出ることはなく、それでも練習に参加し続け、学生たちを時に指導し、時に教わり。

そんな時間を過ごしてくれたことは、感謝しかありません。松本翔選手は、工学院に、学生たちに、とても多くのものを残してくれたと思います。

それは、プロサッカー選手として過ごした経験や、サッカーとの向き合い方、日々の練習の取り組み方。そういうものを、工学院の学生たちに教えてくれたのだと思います。

https://twitter.com/es65_gd88/status/841861923150917632

https://twitter.com/es65_gd88/status/841869104785039361

この1年間、松本翔選手は日本工学院F・マリノスの学生たちとともに、サッカーと向き合い、大切な何かを掴んで、そして福井へと旅立っていきました。

福井では、この先どのような未来が待っているのでしょうか。

それはきっと、松本翔選手にとって輝かしい未来であることを、願ってやみません。

また、いつか松本翔選手が旅を終えた時、振り返って、この工学院での1年間を「よかった」と思ってもらえたら、それはとても幸せなことだと思います。



おわりに

松本翔選手の加入後、サウルコス福井は天皇杯福井県予選を闘いました。

先日4月9日(日)に行われました、福井県予選決勝。サウルコス福井 vs 坂井フェニックスSC。

この試合に2-1勝利し、サウルコス福井は天皇杯本戦への出場が決定いたしました。

そして、今年の天皇杯本戦では、横浜F・マリノスとサウルコス福井がお互いに2回戦までを勝ち抜くと、3回戦で対戦するという組み合わせになっております! 日程・結果 | 第97回天皇杯全日本サッカー選手権大会||JFA|日本サッカー協会

もし天皇杯の舞台でトップチームと松本翔選手が対戦するということになったら、非常に楽しみですね。



(※本記事内で使用している松本翔選手の写真・動画・SNS投稿は、松本翔選手ご本人より許可をいただきまして掲載しております。無断転載は禁止です。)



text:シューマ(@shu_ma
edit:はち(@hachhing

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